更新 住宅の知識
住宅業界が「脱炭素化」を推進しているのを、ご存知でしょうか。世界中が地球温暖化に起因する大災害に見舞われ、危機的な状況です。これを止めるには、住宅の「脱炭素化」が欠かせません。
……と聞くと「住宅の脱炭素化で、温暖化が止まるの?」と思う方もおられるでしょう。じつは「住宅の脱炭素化なくして、日本の脱炭素化の成功なし」と言っても過言ではないのです。
「家を建て、暮らし、壊して、処分する」というサイクルは、多くの炭素を排出します。今から少しの時間、本稿で一緒に「住宅の脱炭素化」について学んでみませんか?
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さっそく、なぜ住宅の脱炭素化が叫ばれているのか、その背景をご紹介します。
「COP」と呼ばれる国連会議をご存知でしょうか。約200カ国が集まって、温暖化対策を協議しています。1997年には京都で開催され、温暖化対策の取り組みを定めた条約・京都議定書が採択されました。
国連には、このCOP以外にも温暖化対策にかかわる「IPCC」という組織があります。IPCCは気候変動のエビデンスを科学的に分析・報告していて、COPと地球温暖化対策の両輪的関係にあると言えます。
そのIPCCが、2021年8月9日にとあるセンセーショナルな表明をおこないました。その内容を、意訳してご紹介します。
・危険なほど、地球温暖化が手に負えなくなる状況に近づいている
・人類に温暖化の責任があることは、疑う余地がない
・温室効果ガスの排出量を削減するために、迅速かつ大規模な行動が必要
これを受けて、国連事務総長や各国の首脳は「人類にとって非常事態である」と声明を出しています。地球温暖化が、人類にとってすでに「対策待ったなし」の状態まで進んでいるのです。
このままでは気温が上昇しつづけ、豪雨や台風がさらに激甚化します。では、それを阻止するために削減すべき「温室効果ガス」とは、いったい何を指すのでしょうか。
じつは、温室効果ガスの大半は二酸化炭素です。ですから、地球温暖化を止めるために「脱炭素化」が叫ばれているのです。
地球規模で「脱炭素化」が必要なのは、わかりました。しかし、なぜ住宅が脱炭素化しなければならないのでしょうか?住宅の脱炭素化で、地球温暖化が止まるのでしょうか?
日本はCOP等を通じて、世界と以下の約束しています。
・2030年度の温室効果ガスの排出量を、2013年度比で46%削減する
・2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする
そして、この目標を達成するための「地球温暖化対策計画案」において、家庭部門の二酸化炭素排出量を66%削減する必要があると試算しているのです。
さて、ここからが大事なところです。住宅は、脱炭素化のためにいったい何をすればいいのでしょうか。
2019年度、日本の二酸化炭素総排出量は「約9トン/1人」でした。このうち、家庭部門の二酸化炭素排出量は「約1.86トン/1人」です。
家庭部門の「用途別の排出割合」の上位を見てみましょう。以下の4つで、シェアが86.1%になります。
1、照明・家電製品など:29.8%
2、自家用乗用車:26.4%
3、暖房:15.7%
4、給湯:14.2%
照明や家電が3割を占めた理由は、化石燃料由来の電気を多く使っているからです。想像しにくいところですが、東日本大震災以降、発電燃料のほとんどが石炭・石油・天然ガスなのです。
しかし、照明や家電で使う化石燃料由来の電気は、再生可能エネルギー(太陽光など)由来の電気を活用すれば減らせます。自動車はEVに、給湯器は電気式に置き換えれば、やはり再エネが使えます。
問題は、暖房です。じつは、ここが日本の住宅のウィークポイントになっています。
「暖房」とヒトクチに言っても、エアコンやストーブ、床暖房など様々なものがあります。これらが使うエネルギーの消費量を減らすには、住宅の高断熱化が欠かせません。
断熱性能が低い住宅は、いくら暖めても熱が外に逃げていきます。多くのエネルギーが無駄に捨てられている、と言い換えてもいいでしょう。
温暖化を止めるためには脱炭素化が必要。そして、住宅の「脱炭素化」には高断熱化が大きな役割を果たすのです。しかし日本の住宅の断熱性は、残念ながら「高性能」とは言えません。
ところで、現在の住宅はどの程度の断熱性能なのでしょうか。省エネ基準(住宅に必要な断熱レベルの指針)と住宅性能から見てみましょう。
住宅の省エネ基準は1980年に制定され、これまで4回改正されています。少し難解ですが、改正ごとの断熱性の移り変わりをご紹介します。
・昭和55年基準(旧省エネ基準):熱損失係数(Q値)で必要な断熱レベルを規定
・平成4年基準(新省エネ基準):Q値の基準を強化、日射取得係数(μ値)を新設
・平成11年基準(次世代省エネ基準):Q値とμ値の基準を強化
・平成25年基準:Q値とμ値を廃止、外皮平均熱還流率(UA値)と平均日射熱取得率(ηA値)に変更
・平成28年基準:平成25年基準の水準と同じ
さて、現行の省エネ基準はどれくらいの断熱性能レベルを要求しているのでしょうか。
じつは、平成11年基準(次世代省エネ基準)からほとんど変わっていません。つまり、日本の今の断熱基準は「約20年前の基準が現役のまま」なのです。
それに比べて、省エネ先進国のドイツでは細かく省エネ基準の改正がおこなわれてきました。最新の省エネ住宅の断熱性は、日本の「次世代省エネ基準」の2~3倍くらい高くなっています。
日本は「時代おくれ」と言われる省エネ基準をもとに家を建てています。その結果、国内や海外の有識者から「日本の家の断熱は先進国の中で最低レベル」とも言われてきました。
そのような基準にもかかわらず、国交省の資料によると、平成29年度の新築住宅(約95万戸)の省エネ基準適合率は62%しかありません。エネルギー効率のよくない住宅が、ずっと建ちつづけているのです。
既存住宅5000万戸に至っては、おおよそ以下のような状況と推計されています。
・平成11年基準以上:10%
・平成4年基準:22%
・昭和55年基準:36%
・昭和55年基準未満(無断熱等):32%
さて、断熱だけでは消費エネルギーの削減が進みません。それどころか、新築と既存住宅をあわせると、現行省エネ基準を満たす住宅が1割程度しかない状況です。
そこで活躍が期待されているのが、高断熱かつ「消費エネルギー」と「創エネ (太陽光で創ったエネルギー)」の収支がゼロになる家。すなわち、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)です。
ZEH住宅をうまく活用すれば、化石燃料由来の電気の消費量を少なくできます。化石燃料の使用量が減れば、二酸化炭素の排出量も削減できます。
では、ZEHの普及率はどれくらいなのでしょうか。
一般社団法人 環境共創イニシアチブがまとめた資料によると、2019年度のZEH供給実績は以下のとおりです。
・新築注文住宅(約28万戸)のうち約20.5%
・新築建売住宅(約14.6万戸)のうち約1.3%
残念ながら、あまり普及が進んでいません。このままでは、家庭部門の脱炭素化は「ただの夢」で終わってしまいそうです。しかし、それでは地球温暖化による気候変動を助長してしまいます。
さて、なぜ日本の住宅の脱炭素化は遅々として進まないのでしょうか。事業者側からと住宅取得者側、両方の原因を探ってみましょう。
先述の環境共創イニシアチブが、ZEHビルダーを対象に目標(受注の50%以上をZEHとする)の未達理由の調査をおこなっています。結果の上位をご紹介しましょう。
・顧客の予算に合わなかった
・顧客の理解を引き出すことができなかった
・体制不備
・工期の問題
・太陽光の発電量が足りなかった
上述の「理由」から見えてくる住宅業界の課題は「ZEHに関する知識不足」や「対応に必要なリソース(人や時間)の不足」でしょう。
たとえば建売住宅では、価格や立地を優先事項上位にあげるお客様がたくさんおられます。そんな方に省エネの重要性をご理解いただき、ZEHを選んでいただけるだけの体制が整っていないのです。
このような状況ですから、高度な省エネ基準を規定しようとすると必ず「時期尚早」という意見が出ます。結局「対応できない建築会社を見捨てない改正」に落ち着く結末がこれまで繰り返されています。
次に、住宅取得者に目を向けてみましょう。なぜ、多くの住宅取得者は、脱炭素につながる高気密高断熱住宅やZEH住宅を取得しようしないのでしょうか。
これは、先述の「ZEHビルダーを対象とした目標の未達理由」を見ると推測できます。つまり、こういうことではないでしょうか。
・高気密高断熱やZEHにすると大幅に予算が上がるので、困る
・予算を上げてまで高気密高断熱やZEHにする意味が、イマイチわからない
ここでひとつ気になることが、ありませんか?どうして日本人は、省エネ化に対して欧米人のように積極的になれないのでしょうか?欧米人は、上述のような気持ちにならないのでしょうか?
これは、日本人の気質からくる事情が影響しているように思います。ここでご紹介したいのが、日本の住宅における「省エネ」の移り変わりです。以下をご覧ください。
1、居住者の我慢で省エネ
2、高気密高断熱住宅で省エネ
3、ゼロエネルギー住宅(ZEH等)で省エネ
4、ゼロカーボン住宅(低炭素住宅等)で省エネ
5、カーボンマイナス住宅(LCCM住宅等)で省エネ
国や我々住宅業界人の啓発不足もあって、消費者の「省エネ」への理解は上述の1から2で止まっています。未だに、冬の寒さを厚着や局所暖房による「我慢の省エネ」でやり過ごす方が多いのです。
つまり「節約上手な日本人は欧米に比べて暖房の使用量が少なく、省エネ住宅を建てても欧米ほど光熱費が低減されない」ということです。
重ねて言いますが、私たちは非常事態と言える気候変動に直面していて「脱炭素化待ったなし」です。その責任は、工業や産業が盛んな先進国ほど重いと言っていいでしょう。
ですから我々日本人にも、どうにかして省エネ住宅を普及せねばなりません。そんな今こそ、当たり前のように次の3つをおこなうことが求められているのではないでしょうか。
1、省エネ基準適合の義務化
2、省エネ基準の引き上げ
3、省エネ住宅の恩恵をわかりやすく伝える
「省エネ基準適合の義務化」は度々議論されてきました。しかし「住宅の需要減退を招く」と先送りされ、現在は住宅を設計した建築士から建て主へ「省エネ性能の説明」が義務化されているだけです。
しかし、もはや省エネ基準を「努力目標」にしておく余裕はありません。義務化と同時に基準を引き上げねば、脱炭素化の目標が達成できず、子や孫に住みよい地球を残せないかもしれないのです。
とは言え、住宅取得者が省エネ化の恩恵を知らなければ、省エネ住宅を建てることはないでしょう。ですから、国や住宅関係者には以下の「省エネ住宅の間接的便益」を発信していくことが求められます。
・光熱費が下がる
・家に設置する冷暖房機器数を減らせる
・医療費の低減が期待できる
・傷病休職による所得低減リスクを減らせる
・創エネにより災害時に自立できる安心感が得られる
高気密高断熱の省エネ住宅が、低光熱費で家中を快適な室温に保てることは、よく知られています。いっぽうで、健康に好影響を与える可能性が高いことは、あまり知られていません。
国土交通省がまとめた資料によると、室温18度以下の住宅に住む人は、18度以上の住宅に住む人に比べて以下のリスクがあるそうです。
・総コレステロール:2.6倍
・心電図異常所見あり:1.9倍
・ヒートショックリスク:約1.8倍
「家の寒さと死亡率の関係」は、欧米ではよく知られています。英国保健省では、10年以上も前に室温について「21度を推奨、18度は許容、16度未満は疾患リスクあり」と公表しています。
WHO(世界保健機関)も、2018年11月に、冬の住宅の室温について「18度以上 (強く勧告)」と発表しています。このような強いメッセージを、日本でも発信していく必要がありそうです。
世界中が地球温暖化に起因する大災害に見舞われ、危機的な状況にあります。これを止めるには、あらゆる営みの「脱炭素化」が欠かせません。
住宅においては、断熱と太陽光発電等の創エネによる「省エネ化」が必須です。しかし、日本の住宅の省エネレベルは低く、今までの延長線上より一段上の省エネ化施策が求められています。
創建ホームでも、ZEHに準拠した省エネ化の取り組みをおこなっています。ご興味を持っていただけましたら、ぜひこちらもご覧ください。
モデルハウスでは、夏は涼しく冬はあったかい「省エネ住宅」を体験していただけます。ぜひ、ご来場ください。