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住宅の三大「お悩み」をご存じでしょうか?答えは「暑い・寒い・結露」です。―― では、この3つすべてに関係するものと言えば、何でしょうか?こちらの答えは「窓」ですね。
じつは、窓の断熱性能を上げると「暑い・寒い・結露」の問題が緩和されます。そこで近年注目されているのが、断熱性能の高い「トリプルサッシ (3重窓)」です。
本稿では、トリプルサッシのメリットとデメリット、そして高性能のヒミツをご紹介します。「トリプルサッシにして後悔しないかな?」とご心配な方は、ぜひ本稿でご不安を解消してください。
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さっそく、トリプルサッシのデメリットを3つご紹介します。
たいていのものには長所と短所があります。トリプルサッシにも長所と短所があり、長所だけ見て採用した結果、あとから短所に気づいて「ちょっとガッカリした」と感じる方がおられます。
一方、最初から長所と短所の両方を把握したうえで採用された方は、満足度が高まる傾向があります。ぜひあなたも、長所と短所を把握してから「採用・不採用」をご検討ください。
家づくりで悩ましいのが、建材のグレードとコストのバランスです。ハイグレードなものがいいのは分かるものの、使うと値段がドンドン上がってしまいますよね。
これは、窓も同じです。トリプルサッシは高性能ですが、ガラスの数が増えるため商品代が高くなります。
窓のメーカーや種類にもよりますが、近年主流となっているペアガラスのサッシより、1.5~2倍くらい高くなる印象です。窓は数が多いので、わりと建築コストに大きな影響を与えるでしょう。
できるだけ初期コストを抑えたい場合は「トリプルサッシの数を減らす」あるいは「補助金を使う」などの対策が有効です。
基本的に、ガラスが増えると窓は重くなります。重くなれば、開け閉めしにくくなるでしょう。ですからトリプルサッシは、ご高齢者やお子さまにとって、開閉しづらいかもしれません。
ご高齢者やお子さまのお部屋の窓は、ハンドルをクルクル回して開閉する「押し出し窓」等にされるとよいでしょう。トリプルサッシでも、比較的簡単に開閉できます。
また、オプションで補助用のハンドルを付けられる引き戸もあります。ハンドルがあれば引きやすくなりますので、操作に必要な力が半分程度で済みます。
参考:YKK AP「APW 引違いテラス戸/サポートハンドルでらくらく開閉」
トリプルガラスやペアガラスのサッシは、断熱性を高めるために、中空層に不活性ガスや乾燥空気を封入しています。この「不活性ガスや乾燥空気」の種類で、断熱性が変わります。
よく使われているガスや空気を、断熱性が高い順に並べてみましょう。
1.クリプトンガス
2.アルゴンガス
3.乾燥空気
クリプトンやアルゴンなどの不活性ガスは、断熱性が高いだけでなく、化学変化を起こしにくいので安定性や不燃性も高い気体です。
しかし、クリプトンガスやアルゴンガスは、経年で徐々に抜けていきます。つまり、徐々に断熱性が落ちていくのです。
また、乾燥空気も含め、湿気を含む空気と入れ替わると中空層に結露を生じさせることもあります。断熱性や乾燥状態を回復するには、窓を交換するしかありません。
つづいて、トリプルサッシのメリットを4つご紹介します。これからご紹介するメリットによって、トリプルサッシはあなたの生活を快適にしてくれるでしょう。
トリプルサッシの特長と言えば「高断熱」です。単板ガラスやペアガラスの窓に比べて、外気温の影響を受けにくいため、窓の室内側の表面温度が変化しにくくなります。
窓の室内側の表面温度が変化しにくいと、窓辺の「夏は暑く、冬はヒンヤリ」が緩和されます。さらに、窓枠を人工樹脂にすると、ガラスだけでなく窓枠部分の温度も室内温に近づきます。
参考:YKK AP YouTubeチャンネル「樹脂窓 APW430 商品紹介」
2022年には、住宅の断熱性能をランク分けする「断熱等級」が23年ぶりに見直されました。これまでは等級4が最高でしたが、新たに等級5・6・7が追加されています。
これからの新築で上位の等級の取得を狙っていくなら、トリプルサッシが強いミカタになってくれるでしょう。
参考:LIXIL「断熱等級とは?新設された等級はどう違う?」
トリプルサッシを採用すると、冷暖房費が安くなります。―― さて、なぜそんなことが起こるのでしょうか?
トリプルサッシは、中空層の空気やガスで断熱しています。つまり、羽毛と空気で断熱するダウンコートや、発泡樹脂と空気で断熱するクーラーボックスと同じ原理です。
ですから、家の断熱性を高めると、室温を一定に保ちやすくなります。室温が安定すれば、冷暖房の負担が減ります。いわゆる「省エネ」と呼ばれる状態ですね。
トリプルサッシを採用した住宅は省エネになり、少ない電気代で夏は涼しい環境を、冬は暖かい環境をつくりやすくなります。
意外に思うかもしれませんが、トリプルガラスの窓でも、ガラスの厚みがすべて同じなら遮音効果の向上は限定的です。じつは、厚めの単板ガラス窓のほうが遮音できるケースもあります。
しかし、なぜそんなことが起こるのでしょうか?―― これは、共鳴透過やコインシデンス効果と呼ばれる現象が関係しています。
・共鳴透過:ガラス同士が共鳴しあって音を増幅してしまう現象
・コイシデンス効果:ある高音域の音がガラスを透過してしまう現象
共鳴透過は低音域で起こり「太鼓現象」と呼ばれることもあります。
一方、コインシデンス効果は高音域で起こります。低い音は聞こえないのに救急車のサイレンはよく聞こえる、といったケースですね。
参考:AGC「音と板ガラス」
しかし、トリプルサッシは遮音効果を上げられます。たとえば、ガラスごとに厚みを変えると、遮音効果が高まります (異厚複層ガラス)。
他にも、防音できる特殊フィルムを挟んだ「合わせガラス構造」のものもあります。
異厚複層ガラスや防音合わせガラスのトリプルサッシをご採用いただくと、遮音性が上がり、静かな住空間を実現できるでしょう。
トリプルサッシの窓ガラスには、結露がほとんど付きません。なぜなら、室内側の窓ガラスがあまり冷たくならないからです。
結露とは、冷えた窓に空気中の水蒸気が触れ、水滴に変わる現象のことです。冷えたグラスの周りに付く水滴も、結露によって生じています。
結露をなくせると、副次的にカビやダニの発生を抑制できます。カビやダニを減らせると、感染症やアレルギー、シックハウスの対策にもなるでしょう。
何より、冬場にびっしょり濡れた窓を拭く ―― という作業がなくなります。
そもそも、トリプルサッシはどんな窓なのでしょうか?
トリプルサッシとは、ガラスが3層になっている窓のことです。「3重窓」や「トリプルガラス」と呼ばれることもあります。
トリプルサッシはガラスや中空層の厚みが重要で「ガラス-中空層-ガラス-中空層-ガラス」の順にmm単位で表記されます。たとえば、こんな感じです。
・3-12-3-12-3
・内外Low-E 4-11-5-11-4
・アルゴンガス入り 3-12-5-12-3
上述の2番目と3番目のように、ガラスやガスの種類を付記する場合もあります。カタログ等をご覧になる際、探してみてください。
参考まで、トリプルサッシの例をご紹介しておきましょう。
・LIXIL「ハイブリッド窓TW」―― デザイン性が高い
・YKK AP「APW430」―― 気密性が高い
・三協アルミ「ALGEO トリプルガラス」―― 掃除がしやすい
トリプルサッシは、一体どのくらい断熱性が高いのでしょうか?
単板ガラス・ペアガラス・トリプルガラスの断熱性は、熱の伝えやすさを表わす「熱貫流率」で比較すると、目安として以下の性能差があります。
・ペアガラスの断熱性は単板ガラスの2倍
・トリプルガラスの断熱性はペアガラスの4倍
上述のとおり、トリプルガラスのサッシは断熱性に優れていますので、ご採用いただくことで住宅の温度を維持しやすくなるのです。その結果「暑い・寒い・結露」の問題が改善されます。
では、そもそも、なぜガラスをトリプルにするのでしょうか?ガスや空気で断熱しているのなら、ペアガラスの中空層を厚くすればよいような気がしますが、それではダメなのでしょうか?
結論から言うと、ダメです。トリプルにする必要があるのです。
断熱性には、以下の特徴があります。
・熱伝導率が低い(熱を伝えにくい)素材ほど高い
・断熱材の厚さに比例して向上する
ところが、気体は厚さと断熱性が比例しません。空気入りの中空層の場合、厚みが12mmくらいまでは断熱性が飛躍的に向上しますが、12mmを超えると緩やかになります。
なぜなら、中空層の厚みが一定以上になると「対流 (水や空気などの流動現象)」が起こり熱を伝えてしまうからです。とりわけ中空層が40mmを超えると、断熱性は下がり始めます。
ですから中空層は、対流を避けるために分割し、それぞれ適切な厚みにすることで高い断熱性を実現できるのです。この仕組みを利用しているのが、トリプルサッシです。
ところで、窓をトリプルサッシにするだけで、家の断熱性が高まるのでしょうか?そもそも、断熱とはどういう仕組みなのでしょうか?
熱には、高いほうから低いほうへ移動する性質があります。つまり、夏や冬の住宅では、こんなことが起こっています。
・夏は、屋外の熱が室内に流入する
・冬は、室内の熱が屋外に流出する
この流出入を妨げるのが「断熱」です。先述のとおり、熱を伝えにくい素材を厚く使って、熱の移動を妨げています。
とは言え、家の断熱には外壁や屋根、床なども関わってきます。「トリプルサッシを採用しても、外壁や屋根、床の断熱性が低ければ意味ないのでは?」と思いませんか?
―― そのとおりです。しかし、断熱において窓が果たす役割はとても大きいのです。住宅において、大半の熱は窓から流出入しています。
たとえば、夏に流入する熱のうち約7割は窓から侵入しています。冬に流出する熱のうち約6割が窓から逃げ出しています。
ですから、暑さ・寒さ対策に関しては、窓の断熱性を上げると満足度アップにつながりやすいのです。
最後に、トリプルサッシのコストダウン方法をご紹介します。
トリプルサッシは、初期費用は高くなりますが、光熱費が下がります。快適で健康的に暮らせますので、間接的には医療費の低減も期待できるでしょう。
ですから、長い目で見れば、トリプルサッシは徐々に初期費用を回収できます。初期費用を抑えれば、回収に必要な期間も短くなるでしょう。
家じゅうの窓をトリプルサッシにすると、大きくコストアップしてしまいます。一方、トリプルサッシを一部に限定すれば、コストアップを抑えられます。
トリプルサッシにする窓は、ご家族の状況や価値観に合わせて選んでいただくとよいでしょう。たとえば、人がよくいる(冷暖房をよく使う)部屋だけ採用するのはどうでしょうか?
ちなみに「冬は暖かい日差しを取り込みたい」という場合は、断熱とは別の話になります。そちらは、遮熱性のコントロールが必要です。詳しくは以下の記事をご覧ください。
》新築時に遮熱するなら?窓ガラス・外壁・屋根をおすすめする理由
建築物省エネ法が改正され、2025年4月から新築の「省エネ基準適合」が義務付けられます。改正法が施行されると、省エネ基準を満たさない住宅は建てられません。
今後は、ますます住宅の省エネ性や断熱性が注目されていくでしょう。このような流れの中で、必然的にトリプルサッシも注目され始めています。
これから新築される方は、トリプルサッシの長所と短所を把握して、採用を検討されてみてはいかがでしょうか?うまく利用すると、住み心地のよい家になりますよ。